エド・スクレインが演じる予定だったベン・デミオは“日系人”
事の経緯は8月下旬に遡ります。『デッドプール』『トランスポーター イグニション』など近年の活躍も目覚ましい注目株、エド・スクレインが、2018年公開予定のリブート版『ヘルボーイ』への出演決定を表明。一挙に期待が高まりましたが、問題はその配役にありました。
© 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
エド・スクレインが演じるという役柄は「ベン・デミオ」。ヘルボーイと同じ超常現象調査防衛局に所属する軍人なのですが、彼は“日系アメリカ人”。先の大戦で日本軍の暗殺者だったという祖母を持つキャラクターで、原作のルックスもどう見てもアジア系です。
出演発表後、世界中からバッシングの嵐!
この出演発表がされた直後から、世界中でバッシングの嵐が巻き起こりました。その非難コメントの大多数を占めるのが、今回の配役が、ハリウッドの長い歴史を以ってしてもいまだに解決されない根深い問題として度々議論されている“ホワイトウォッシング”ではないかというものでした。
ハリウッドで問題視される“ホワイトウォッシング”とは?
『ゴースト・イン・ザ・シェル』 (C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
“ホワイトウォッシング”。映画界で使われる場合は、“白人ではない役柄を白人でごまかす、白人にすり替える”といった意味合いです。この問題はハリウッドの歴史上でも古くから根深く、かつてアジア系や先住民などの役柄を白人が演じる際、顔を黄色く、黒くペインティングしていた頃から端を発し、かつては「少数民族の役者が少ないから」という理由でまかり通っていました。しかし世界的にも圧倒的に白人以外の人種の構成比が増え、白人以外の俳優たちも多数存在する現在、この理由は既に通りません。
© 2010 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.
近年でも、原作は日本発、役名も日本人で舞台も日本の『ゴースト・イン・ザ・シェル』にて、スカーレット・ヨハンソンをはじめ白人俳優ばかりがメインキャストの日本人を演じ、日本人俳優は脇役に甘んじていたことで“ホワイトウォッシング”の典型であると議論されたばかり。『エアベンダー』も、ベースとなったTV番組とは違い白人俳優が「善」のアジア系やイヌイット役を演じ、「悪」となる役を中東系やインド系の俳優が演じたことで多くの非難を浴びました。
この問題の肝心は、「その逆の例」つまり黒人俳優が白人を、またアジア系俳優が白人を演じるという例が極端に少ないこと。これは白人優位の考えなのか、それとも人種差別にも繋がるのか。簡単に答えが出るものではありませんが、議論の余地は大いにあります。
そして降板へ。「彼の決断を誇りに思う」親友ニコラス・ホルトが激励コメント
ニコラス・ホルト&エド・スクレイン-(C)Getty Images
こうしたバッシングを受けてエド・スクレインは、出演発表からわずか1週間足らずで出演辞退をSNS上で宣言しました。役柄が日系人であることに気が付かず、安易にオファーを引き受けてしまったということをはっきりと認め「自分が正しいと思えることしなければならない」とのコメントも残しています。その決断を英断として支持する、といった激励も寄せられています。
ニコラス・ホルト - (C) Getty Images
エド・スクレインの長年の親友という俳優ニコラス・ホルトは、米エンタメメディア「The Wrap」CEOとの対談の中で「エドの行動には完全に同意するね。尊敬に値するよ」とコメント。「彼の決断を誇りに思う…簡単なことじゃないさ。だって、ぼくらは仕事のために役を得ようとしているんだから」と、苦悩したであろう親友を精一杯気遣う姿勢も示しました。問題をスルーせず発言する勇気と、漢気の持ち主だと思います。
今後はどうなる?リブート版『ヘルボーイ』への期待は高まる一方
© 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
製作途中でこのような問題に直面したリブート版『ヘルボーイ』ですが、今後はどうなっていくのでしょうか。かつてギレルモ・デル・トロ監督とロン・パールマン主演で大ヒットを記録した同シリーズ。今回は『ディセント』『ドゥームズデイ』で知られるニール・マーシャル監督がメガホンを取り、R指定の内容で過激に再起動させるといいます。主演もロン・パールマンから『スーサイド・スクワッド』のデヴィッド・ハーバーにバトンタッチしています。
ミラ・ジョヴォヴィッチ-(C)Getty Images
気になるのは、続々と追加キャスト決定のニュースが来る中、エド・スクレインの二の舞のようなキャスティングがないかどうかという点。ミラ・ジョヴォヴィッチ扮するブラッド・クイーンや、サシャ・レイン扮するアリス・モナハンについては問題なさそうです。どうか今回の問題を糧に、さらに製作にも熱を入れてほしいものですね。
まとめ
今回のエド・スクレインが下した素早い決断は、とても誠意あるものとして受け入れられているようです。しかしこれはオファーを承諾した彼だけではなく、オファーした制作側にも大いに責任があると考えられます。
ハリウッドの抱える根深い問題に、確実に一石を投じた今回の降板劇。彼の勇気を無駄にしない為にも、この問題には今後も真剣に取り組まなければなりませんね。