『ソニータ』9,000ドルの値段が付けられた少女は「児童婚」を回避できるのか?
ⓒ Behrouz Badrouj
『ソニータ』は、アフガニスタン出身であり、イランで難民生活している少女ソニータの半生と現在をストレートに描く、まるでドラマのようなドキュメンタリー。2015年に、額に自分の値段のバーコードを書いたラッパー志願の少女として報道にも取り上げられました。
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まず、彼女はアフガンからイランへと逃れてきた不法難民であること。アフガンに住む自分の親に、9000ドルという値段を付けられ「児童婚」として嫁がされる予定であること。イランでは女性が許可なく人前で歌を歌うこともできないこと。これらは全て事実であり、ラッパーとして大成することだけが彼女の夢であり、かつ彼女の持つ唯一の選択肢です。
ソニータの勇気はもちろん、映画という娯楽の中では対処できないテーマを映画化した勇気ある監督ロクサレ・ガエム・マガミにも拍手を送りたいですね。
『子供の情景』紛争地に生きる子供たちは、その瞳に何を見る?
『子供の情景』は、かつて過激派グループのタリバンによって破壊された石仏の瓦礫がいまだに残るアフガニスタンのバーミヤンが舞台。世界から忘れられたこの地でいまだに「最も弱い立場である」子供たちの姿を描いた秀作です。お金がなく、学校にも行けず、一冊のノートを買うために弱冠6歳で働くしかない少女バクタイを演じるニクバクト・ノルーズの瞳が目に焼き付きます。
20歳の若さで監督を務めたのは、イランの新鋭女流監督ハナ・マフマルバフ。
『オフサイド・ガールズ』サッカー観戦禁止反対!スタジアムへと乗り込む少女達の青春絵巻
サッカーが国民的スポーツとされる人気なのにも関わらず、イスラム教の影響で女性が男性のスポーツを観戦することが法律で禁じられているというイラン。俄かには信じられないですが事実です。そんな中、2006年のワールドカップ出場がかかる大一番をひと目見ようと、少女たちが奮闘する姿を元気いっぱいに描く本作。娯楽作としても楽しめ、かつ未だに男女不平等が日常に根付く現実を考えるきっかけにもなり得る作品です。
『彼女が消えた浜辺』忽然と姿を消したイラン人女性と、背景にある社会事情の闇
美しいカスピ海沿岸にて、バカンスに訪れていたイラン人の若者たち。その内のひとりの女性が忽然と姿を消し、必死の捜索を試みたことから判明した事実は「名前以外、誰も彼女の素性を知らない」という事実でした。『彼女が消えた浜辺』の本当のテーマは、個を尊重されるべきひとりの女性が、イラン社会ではどう扱われているのかという事実。これに尽きます。
出演はゴルシフテ・ファラハニ。監督は本作が監督デビューのアスガー・ファルハディ。
『人生タクシー』“20年間映画製作禁止”を言い渡されている監督の逆襲
© 2015 Jafar Panahi Productions
本作で文字通り、タクシー運転手に“扮している”ジャファル・パナヒ監督は、かつての監督作の内容がイラン政府への反体制的な活動とされ、2010年より“20年間の映画監督禁止令”を受けています。そんな彼がタクシーという舞台を用意し、タクシー運転手という隠れ蓑を利用して、厳しい情報統制下にあるテヘランの街に暮らす様々な乗客達の模様をリアルにそしてユーモアたっぷりに描いています。
『パラダイス・ナウ』イスラエルへの自爆攻撃を任命されたパレスチナ・ゲリラの物語
出口の見えない紛争を続けているイスラエルvsパレスチナ。イスラエルへの自爆攻撃を任命されたパレスチナ・ゲリラたちの姿を第三者的目線で描いた『パラダイス・ナウ』ですが、本作を巡る事実からほんの少しだけ見える希望の光があります。まず、本作のプロデューサーにはイスラエル人も名を連ねていること。もうひとつは、アカデミー外国語映画賞にノミネートされるほどの出来栄えを誇り、賛否両論を巻き起こしたこと。まずは素晴らしい問題提起をしてくれた本作に感謝です。
出演はカイス・ナシェフ、アリ・スリマン。監督はハニ・アブ・アサド。
『灼熱の魂』会ったことも無い父と兄を探す旅の行方
© 2010 Incendies inc. (a micro_scope inc. company) - TS Productions sarl. All rights reserved.
『灼熱の魂』は、母一人子二人で育てられた双子の姉妹が、亡くなった母の遺言どおり、その存在すら聞かされていなかった父と兄を探す旅に出る姿を描く衝撃のドラマです。母の人生を翻弄し続けた運命とはなんだったのか。姉妹は中東にて身を以ってそれを体験します。
出演はルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーラン。監督は本作でブレイクし、『メッセージ』そして来たる『ブレードランナー 2049』の監督に大抜擢されたドゥニ・ヴィルヌーヴ。
『独裁者と小さな孫』権力と表裏一体の「無」から孫を守り抜く元独裁者
本作の監督であるモフセン・マフマルバフは、自身もヨーロッパで亡命生活を続けるイランの巨匠です。この作品に込められたメッセージの中には、故国への愛憎入り混じる感情が見て取れます。
何不自由なく育てられた少年。少年の祖父であり、どこかの国で残虐かつ冷酷な独裁政権を敷く年老いた独裁者。やがてクーデターが勃発し、一気に生命の危機に陥り逃亡するはめとなった元独裁者は、何も知らない孫を守るべく、共に逃亡の旅に出ます。歴史の事実が語る通り、彼らは独裁者一家が辿るべき末路を迎えるのか?
出演はミシャ・ゴミアシュヴィリ、ダチ・オルウェラシュヴィリ。
まとめ
ⓒ Behrouz Badrouj
いかがでしたでしょうか。
自由な表現、主張、そして人間として受け取って当たり前の権利さえままならない実情の中で、懸命に毎日を生きるキャストやスタッフたち。彼らの想いをスクリーンから受け取りましょう!
『ソニータ』は10月21日、館数限定での公開予定です。