『ブレードランナー2049』観る前に第1作で予習しよう

『ブレードランナー2049』観る前に第1作で予習しよう

ようやく公開された『ブレードランナー2049』。まだ劇場へ行ってない人のために、この作品の原点となった80年代SF映画の金字塔『ブレードランナー』をさまざまな角度から紹介しましょう。


01. リドリー・スコットのSFヒット作第2弾

リドリー・スコット-(C)Getty Images

女性二人が逃避行を繰り広げる『テルマ&ルイーズ』、ローマ帝国を舞台にした勇壮な史劇『グラディエイター』など、作風の幅も広い巨匠・リドリー・スコット監督。出世作『エイリアン』に続き1982年に発表したSF作品が『ブレードランナー』だ。

公開当初は客も入らず、失敗作呼ばわりもされていたが、しだいに映画ファンの話題を呼び、やがてカルト的な人気作品に。それだけこの作品は多様な魅力にあふれているのだ。順を追って見ていこう。

02. 近未来のロサンゼルスの描写がスゴい!

『ブレードランナー 2049』

『ブレードランナー』でまず圧巻なのは舞台となる近未来のL.A.の街の描写。酸性雨が降り注ぐ荒廃した都市の情景は”ブレードランナー感覚”とも評され、その後、映画はもちろん、映像表現を超えてさまざまなカルチャーに多大なる影響を及ぼしていく。最新作の『ブレードランナー2049』でも街の風景は大きな魅力。

03. 「ゲイシャ」「強力わかもと」に日本人大絶賛!

『ブレードランナー 2049』短編アニメ「ブレードランナー ブラックアウト2022」

意外と日本びいきな『ブレードランナー』。冒頭、主人公のデッカードが屋台でうどんを食べるシーンではうどん屋のおやじが「ふたつで十分ですよ! わかってくださいよ!」などとあやしい日本語を連発しているし、街を俯瞰するシーンのあちこちに「強力わかもと」の看板や芸者の顔のアップが登場する。

写真は「カウボーイビバップ」などで知られるアニメ界の渡辺信一郎監督による短編作品「ブレードランナー ブラックアウト2022」。こちらにもしっかりヴァーチャル芸者が登場、オリジナル作をリスペクトしている。

04. ダークな世界観を表現した名デザイナー、アーティストたち

『エイリアン:コヴェナント』ポスター (C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

『ブレードランナー』よりもひと足先にリドリー・スコットの名を印象づけたのが、言わずと知れたSFホラーの原点、『エイリアン』。

悪夢のようなこの異形の怪物を創造したのはスイス人の画家でデザイナー、H.R.ギーガー。この作品で彼はアカデミー視覚効果賞を受賞、日本でもまたたくまに有名になった。

続く『ブレードランナー』でスコット監督が組んだのは、車のデザインなどを手がけていたシド・ミード。スクリーンを縦横無尽に飛びまわるスピナーをはじめ、背景となる都市の外観、ビルディングなどの建築物、セットや小道具のデザインを請け負った。新作『2049』でもコンセプチュアル・デザインを担当、彼により『ブレードランナー』の美学は見事に受け継がれた。

『2049』と時を同じくして『エイリアン』もシリーズ最新作『コヴェナント』がリドリー・スコット自身の手によりつくられた(写真)。2012年公開『プロメテウス』の続編となり、シリーズ第1作の前日譚にもあたる作品だ。

スコット本人が監督を手がけたが、シリーズの2、3、4はジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ジャン=ピエール・ジュネとそれぞれ監督が違う。

『ブレードランナー』も新作はドゥニ・ヴィルヌーヴが監督をつとめている。優れたデザインはたとえ監督が誰であろうと共通の世界観を観る者に提供するのだろう。

05. 主役のハリソン・フォードも食われた(?)、強烈なレプリカント俳優

ハリソン・フォード『ブレードランナー 2049』/写真:奥野和彦

第1作で主人公デッカードを演じたハリソン・フォード。

1970年代末から始まる『スター・ウォーズ』三部作のハン・ソロ、から始まり、『ブレードランナー』、そして『インディ・ジョーンズ』シリーズ……。80年代を代表する作品に次々と出演し、ルーカスやスピルバーグ、リドリー・スコットという煌めく才能たちとコラボしたハリソン・フォード。非常に恵まれたキャリアを積んだ俳優だ。

今回の『2049』でも30年以上の時を経た前作とほとんど変わらない姿で登場するのは驚きだ。やはりデッカード=レプリカント説は正しいのだろうか……。

同じく30年以上前の第1作で、レプリカントたちの親玉を演じた俳優ルトガー・ハウアーも忘れるわけにはいかないだろう。

オランダ出身、シルヴェスター・スタローン主演の刑事アクション『ナイト・ホークス』のテロリスト役で人気をつかんだルトガー・ハウアー。続いて出演した『ブレードランナー』のレプリ役ではさらに強烈な印象を残した。冷酷な表情の陰にひそむアンドロイドの悲しみと、生きるとは何かという哲学的な問いを見事に表現し、作品を芸術性高いものにした。

その後ハウアーは1986年公開の主演作『ヒッチャー』で血も凍る殺人鬼を怪演、話題となった。どこか人間離れした悪役を得意とするようだ。日本でも隠れたファン多し!

06. 未来のガジェットも作品の魅力

『ブレードランナー 2049』ポスター

小道具のひとつひとつ、ディテールまで凝りに凝った『ブレードランナー』。カットひとつでも見逃すわけにはいかない。

ガジェット感あふれるグッズが続々と登場するが、とくに印象に残るのがデッカードが捜査で手に入れた写真を拡大し、写った映像を解析していくシーン。

ま、今になってみればなんてことはありません。誰もが指先でスマホの画面を拡大してるんですから。時代は確実にブレランに近づいている。

そして何といっても男ゴコロをくすぐるのは、やはりあのスピナーでしょう。第1作から30年以上が経過し、こちらも最新型にモデルチェンジしています。

07. マニアの心をくすぐる別ヴァージョンの数々

『ブレードランナー ファイナル・カット』-(C) 2017 The Blade Runner Partnership.All Rights Rserved.

『ブレードランナー』の世界観にズッポリとハマったファンたちは、やがてこの作品のいくつもの異なるヴァージョンに目を向けるようになる。

ただでさえ難解な作品世界をますます複雑にしているこれらのヴァージョン、代表的なものをあげてみると、まずオリジナル版、劇場公開10周年を記念して再編集されたディレクターズ・カット、公開25周年記念のファイナル・カットなどが存在する。

ヴァージョンそれぞれにラストが変わっていたり、ユニコーンが出たり出なかったり、主人公のナレーションがあったりなかったり、もうワケのわからないことになっている。

マニアは些末なちがいに執念深くこだわって熱狂的に語ったり、全ヴァージョンを収集したりするが、一般人は手を出さないほうがいいだろう。

写真は『2049』の公開に先がけ、行われた『ブレードランナー ファイナル・カット』爆音上映の際のポスター。ビデオやDVDでしか見られなかったかつての名作を大きなスクリーンで、しかも爆音で体験でき、ファンも冥利に尽きるだろう。

08. 悪夢の未来社会を描く原作者ディック

アーノルド・シュワルツェネッガー-(C)Getty Images

『ブレードランナー』はアメリカのSF作家P.K.ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が原作とされている。

しかし映画の印象は原作と大きく異なり、小説の設定や世界観を借りたというほうが正確だろう。

1950年代に執筆を始めたディック。当時は「SFの黄金時代」と呼ばれ、同時期のSF作家たちは科学の進歩や輝かしい未来を描くことが多かった。

反面、ディックはそれらがもたらすネガティブな一面にこだわり、人間の管理や疎外が進んだディストピアな未来社会にこだわり続けた。これには作者自身のドラッグ体験も大きいだろう。

『ブレードランナー』公開直前、惜しくもこの世を去ったディック。その後も彼の作品は映画化が相次いだ。1990年にアーノルド・シュワルツネッガー主演(写真)、2012年にコリン・ファレル主演で2度にわたり製作された『トータル・リコール』(原作「追憶売ります」)、2002年の『マイノリティ・リポート』(原作「少数報告」)、2006年の『スキャナー・ダークリー』など、彼の作品群はヒットコンテンツの宝庫と呼べるだろう。

なお映画の『2049』とは無関係だが、K.W.ジーターという作家も『ブレードランナー2』『ブレードランナー3』という続編小説を発表している。映画と小説のジャンルを越境し、『ブレードランナー』はリスペクトされ続けている。

09. 米国ハードボイルドのヒーロー像を受け継ぐデッカード。

『ブレードランナー 2049』

逃亡するレプリたちを一人一人探し出しては追いつめる……『ブレードランナー』の物語の骨格は、1950年代からアメリアで盛んになったハードボイルド探偵小説のパターンを思わせる。

孤独な追跡行を続けるデッカードの姿に、ハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーの想像した私立探偵フィリップ・マーロウがダブる。

ハードボイルド作品の多くは、主人公による「私は~」という一人称で語られる。『ブレードランナー』もデッカードの心のつぶやきがひんぱんに作中に挿入され、そのタフな語り口が映画の魅力のひとつとなっている。

雨に濡れた都市の情景やすさまじい暴力描写も、1940~50年代の「フィルム・ノワール」と呼ばれる一連の犯罪映画をほうふつとさせ、近未来でありながらどこか古めかしい『ブレードランナー』の映像は「レトロ・フューチャー」という言葉の誕生につながっていく。

10. 大阪をブレードランナーの都市に変えた『ブラック・レイン』

『健さん』(C)2016 Team "KEN SAN”

ここで『ブレードランナー』と邦画界との関係に目を向けてみよう。

2014年にこの世を去った名優・高倉健。彼が出演したリドリー・スコット監督作品が1989年公開の『ブラック・レイン』だ。

大阪の街を舞台に、日本とアメリカの刑事たちがヤクザと戦いを繰り広げる。アメリカ勢のマイケル・ダグラスやアンディ・ガルシアを迎えるのが高倉健演じる大阪府警の刑事だ。

この作品で描かれる大阪の街が『ブレードランナー』に登場する未来のロサンゼルスそのまんま。

当初スコット監督は東京を映画の舞台に考えていたが、諸般の事情で大阪になったらしい。オサレな東京ではやはりこの雰囲気は出せなかったろう。混沌とした大阪の街のエネルギーが『ブレードランナー』再現を可能にしたに違いない。

『ブラック・レイン』にヤクザ役で出演した松田優作は撮影後、1989年11月にガンのため急逝した。この作品は彼の遺作でもある。スコット監督は続編にも松田を出演させるため、映画のラストで彼の演じるヤクザを殺さなかったのだという。

もしも『2049』に松田優作が出演していたら、などと夢のようなことを想像してしまう……。

まとめ・深読みできる謎の多さが『ブレードランナー』の魅力

『ブレードランナー 2049』

さまざまな角度から『ブレードランナー』という映画を紹介した。

ほんの軽く触れた程度でも、この作品が多彩な魅力に満ちていることがお分かりいただけたのではと思う。これだけ予習しておけば、続編を観る準備も万全だ。

ひと足早く『2049』を観た人のなかからは、話の展開が重くて寝落ちしたなどという否定的な声も上がっている。

いかにも3時間近い上映時間はしんどそうだ。でもここでビビッてはいけない。

80年代はじめの公開当時も『ブレードランナー』は難解だというのが、もっぱらの評判だった。

たしかに簡単には理解できない部分も多い。正直なところ筆者も初めてこの作品を観たときは、なにがなんだかよくわからなかった。わからなかったけれども「これはスゴいものを観てしまった」と本能的に感じた。これは何度も繰り返し観なければという気にさせられ、名画座に通ったりヴァージョン違いのビデオソフトやDVDを買い集めた。

このごろは映画だけでなく、文学や芸術、さらに社会問題を報じるニュースまでが”わかりやすいこと”を第一にしているようだ。

でも、何もかも簡単にわかっちゃったら面白味がないじゃないですか。

作品に隠された謎を解くことは、大げさに言えば、これからの不確かな時代を生きていくスキルにも通じるかもしれない。ほんとに大げさだけど。さあ、予習がすんだら映画館へ急ぎましょう。

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