日本でも大きく取り上げられた、前代未聞の誘拐劇
『ゲティ家の身代金』(C)2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
1973年に世界中を震撼させた誘拐事件。
「世界一の大富豪」であるアメリカ人石油王ジャン・ポール・ゲティの孫、ジョン・ポール・ゲティ三世が誘拐され、その身代金は1,700万ドル。日本円にして約50億円という破格の金額でした。
『手紙は憶えている』(C)2014, Remember Productions Inc.
さらにこの事件を注目させたのが、50億ドル(1.4兆円)もの資産を持つゲティが、身代金の支払いを拒否したことでした。
この出来事は日本の週刊誌、新聞でも大きく報道されました。
今作『ゲティ家の誘拐』で取り上げるのは、その舞台裏で必死に戦い続けた、人質の母親。
離婚が原因で一族を離れた普通の母は、なんと誘拐犯と、ゲティ、二つの強敵に立ち向かうことになるのです。
あらすじ
-(C) 2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.『All the Money in the World/オール・ザ・マネー・イン・ザ・ワールド』(原題) (C)2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
“世界中のすべての金を手にした”といわれる大富豪ゲティ。
ある日、彼の孫であるポールが誘拐されると、身代金として1700万ドルという破格の金額を要求されます。
ところがゲティは、その支払いを断固拒否します。
彼は大富豪であると同時に稀代の守銭奴だったのです・・・。
クリストファー・プラマー Richard Harbaugh / -(C)A.M.P.A.S.
ポールの母ゲイルは、離婚によってゲティ家を離れていたため、とても身代金の支払いは不可能でした。
それにより彼女は、度々脅してくる誘拐犯だけでなく、断固として支払いに応じようとしないゲティとも戦うことになってしまいます。
さらには警察から狂言と疑われ、マスコミに執拗に追い回されるようになるゲイルは疲弊していきます。
誘拐犯は、痺れを切らしていき、ポールの身に危険が迫ってきます・・・。
ケヴィン・スペイシー降板でお蔵入りの危機に?
ケヴィン・スペイシー-(C) Getty Images
今作が日本公開する前に話題に上った理由。それは当初ジャン・ポール・ゲティ役にキャスティングされていた、大御所俳優ケヴィン・スペイシーがスキャンダルによって降板してしまったこと。
ケヴィン・スペイシー-(C) Getty Images
ハリウッド大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題以前に発覚したこともあり、ハリウッドで巻き起こるセクハラ問題の大元ともいえる人物になってしまったケヴィン・スペイシー。
彼の降板によって、製作サイドは出演シーンを全て削除。作品はお蔵入りされるのではとささやかれるほどでした。
代打を勤めたクリストファー・プラマーがゴールデングローブ賞にノミネート
クリストファー・プラマー-(C)Getty Images
そんな中、代役として抜擢されたのが『サウンド・オブ・ミュージック』や近年では『手紙は覚えている』で主演を務めたクリストファー・プラマー。
既に殆どの撮影が終えている中、監督のリドリー・スコットはクリストファーだけで再撮影をし、編集して本編を完成させました。
『手紙は憶えている』(C)2014,Remember Productions Inc.
そんなイレギュラーな撮影にも関わらず、クリストファーは今作の演技で、ゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞に助演男優賞としてノミネートされるという離れ業を成し遂げました。
彼は2011年のアカデミー賞でも助演男優賞としてノミネートされ、当時82歳という史上最高齢でしたが、今作のノミネートで最高記録を88歳に塗り替えました。
世界一の大富豪にして守銭奴・ジャン・ポール・ゲティとはどんな人物か?
-(C) 2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.『All the Money in the World/オール・ザ・マネー・イン・ザ・ワールド』(原題) (C)2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
弁護士ジョージ・ゲティとセアラの間に生まれたジャン・ポール・ゲティは裕福な幼少期を過ごします。
父とともにゲティはオクラホマで石油会社を設立して大成功を収めるだけでなく、大恐慌で石油メジャーが安全策を取る最中、ゲティは逆に勝負を仕掛けます。
その結果、大手の吸収により事業を拡大、中東への進出を図ります。
クリストファー・プラマー-(C)Getty Images
1957年、フォーチュン誌が初めて発表したアメリカ人長者番付でゲティは1位を獲得。
その後「世界一裕福な個人」として、ギネス認定もされました。
ところが私生活では生涯5度結婚し、5人の息子に恵まれるますが、それぞれの妻との離婚調停で多額の慰謝料を要求されることに。
子供達もストレスにより自殺したり、ドラッグ中毒になったり、若くして病死したりと、悲劇的な最期を遂げる者が多かったようです。
必ずしもお金があれば幸せというわけではないということがひしひしと伝わってきます。
ただのクライムスリラーではない?お金に取り付かれた男を描ききる
リドリー・スコット-(C)Getty Images
今作の脚本は映画化されていない脚本を評価する制作サイドとのマッチングプロジェクト「ブラックリスト」にて好評価を得ていました。
というのも、今作は一見してクライムスリラーのようですが、実際はジャン・ポール・ゲティの強烈なキャラを上手く生かした構造になっています。
ジェシカ・チャステイン&リドリー・スコット監督/『オデッセイ』 ー(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved
お金がゲティを呪縛し、その影響がゲイルや誘拐犯に及ぶという、その影響を検証するストーリーだと、脚本のデヴィット・スカルパは語ります。
今回の誘拐犯はテロリストということもあり、今のアメリカならテロには屈しない=身代金の交渉にも応じないという判断になるため、ある意味当時のゲティの判断は先進的だったともいえるようです。
それだけ、ゲティの振る舞いは、作中のあらゆる人物に何かしらの影響を及ぼし、ストーリーもこれまでにないテイストになっています。