押井守監督渾身作!『スカイクロラ』で若者たちに伝えたかったこと

押井守監督渾身作!『スカイクロラ』で若者たちに伝えたかったこと

2008年に映画化された『スカイクロラ』。攻殻機動隊シリーズで世界中に名が知られ、熱狂的なファンをもつ押井守監督が『イノセンス』以来4年ぶりに手がけた本作品は、押井監督に「本作が成功しなかったら辞める」とまで言わせたくらい気合の入った作品。『スカイクロラ』で押井監督が伝えようとしたこととはいったい?


『スカイクロラ』ってどんな映画?

製作期間約1年半、総作画枚数5万枚の『スカイクロラ』。前作の『イノセンス』とは一転、「生きる」ということの実感に迫った本作品で、押井監督は現代に生きる若者たちに生き方への疑問を投げかけます。

『スカイクロラ』あらすじをご紹介

戦争がショーとして行われる世界

©森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

舞台となるのは、限りなく日本のようでありながらも日本ではないどこかの世界。そこでは平和が保たれ、人々の生活を脅かすものは何もありませんでした。
しかしながら主人公となるのは、戦闘機のパイロットとして働く函南優一(カンナミ ユウイチ)という青年。そう、そこではショーとしての戦争が行われていたのでした。どこかで悲惨な出来事が起こっていなければ自分の平和を実感できない人々のために、企業は代理戦争を請け負い人々に戦争という娯楽を提供するのです。

キルドレという存在

戦闘機を操縦するパイロットとして働くのは「キルドレ」と呼ばれる子供たち。主人公の函南と彼の上司である草薙水素、そして他のパイロットもみんなキルドレです。彼らは大人に成長することはなく、永遠に子供のままでいます。そして自殺や戦死しない限り死ぬことはない存在です。

©森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

永遠を生きる彼らにとって、生きることの実感を得られるのは空の上での戦闘だけ。死と隣り合わせの時間でしか、自分が何者として生きているのかに確信を得ることができません。そんな彼らの前に、「普通の大人の男」としてパイロットをしているティーチャという存在が姿を現します。

「空の上でティーチャに会うと、絶対に生きては帰ってこれない。」
ティーチャはキルドレのパイロットにとって絶対に勝つことのできない相手として君臨します。そしてティーチャはどうやら過去にエースパイロットとして活躍していた草薙水素とも関係があったよう。

ティーチャの存在、草薙水素の過去、そしてキルドレの歩む運命が絡み合い、函南はそれまで考えることもなかった自分の存在について漠然と考え始めます。そしてキルドレについての一つの事実を知ることとなるのです。

『スカイクロラ』原作は森博嗣先生のシリーズ作品

小説「すべてがFになる」でも有名な森博嗣さん原作の「スカイクロラ」シリーズを映像化したのが本作品。シリーズは全6作品となっており、シリーズの中では函南の物語だけでなく草薙水素が主人公の物語や、クリタという同じくキルドレの人物の物語もあります。

小説は疾走感と透明感に満ち、戦闘シーンの静かな迫力を感じさせる内容となっていますが、これを映像化するのはなかなかむずかしいと考えられていました。また、押井監督はこれまで自作の主人公は30代〜40代の人物が多かったため、最初はオファーを断ろうとしていたと言います。しかし途中で気が変わり、心機一転若者に向けた作品を作ろうと決心したといいます。

『スカイクロラ』独自の世界観を表現する豪華な声優陣

函南優一役 加瀬亮

主人公・函南優一役を演じたのは海外作品にも多数出演している加瀬亮さん。実はこれが声優初挑戦だったようで、収録が17時間にも及ぶことがあったそう。

掴みどころがなく、あどけなさが少し残る函南をうまく演じています。世界と自分にまるで興味がないようなときと、気持ちに力が入る瞬間の微妙な差を見事に表現していました。

草薙水素役 菊地凛子

函南の上官である草薙水素を演じたのは、ハリウッド映画にも起用され国際的に活躍している菊地凛子さん。押井監督がオーディションで適役を見つけることができずにいたときに別の現場で出会った菊池さんを見てオファーしたそう。

草薙水素のどこか破綻した雰囲気と、アンバランスな雰囲気を絶妙に表現していました。キルドレの曖昧な存在を常に感じさせ、考えさせる重要な役どころを見事に演じきっていました。

土岐野尚史役 谷原章介

函南の先輩にあたる土岐野を演じたのは谷原章介さん。土岐野のひょうきんな性格と、傍観者としてのある種の無関心さのようなものを絶妙なバランス感覚で演じています。

三ツ矢碧役 栗山千明

キルドレとしての自分を認めることができず、自分が何者なのかがわからないことに思い悩む少女・三ツ矢を演じた栗山さん。押井監督が絵コンテを描いていた段階から栗山さんに演じてもらうことを想像していたそうです。

押井監督としては初めての有名芸能人の声優起用だったようですが、皆さんスカイクロラの独特な世界観を慎重に、そして丁寧に表現されていたことがわかります。

『スカイクロラ』押井監督のこだわりの数々

こだわり1 静かな迫力に魅入る戦闘シーン

押井監督といえば、戦闘機に対する豊富な知識を活かしたリアリティーのある戦闘シーンが有名です。攻殻機動隊シリーズもそうですが、押井監督の徹底した下調べをもとに描かれる戦闘機は緻密で説得力を作品に与えてくれます。

戦闘機が砕け散るシーンでは様々なパターンの散り方を想定して、一番印象に残る散り方を採用したといいます。撃墜のシーンが度々ありますが、それぞれが映像として華があることにこだわっています。

こだわり2 繊細な音の表現

※画像はイメージです。

押井監督が『スカイクロラ』の演出でこだわり抜いたのが、音の表現。そのこだわりを実現するために、ハリウッド映画を手がけるサウンドスタジオ「スカイウォーカー・サウンド」で音響製作を行いました。「スカイウォーカー・サウンド」とはルーカスフィルムの一部門であり、名前からもわかる通りスターウォーズシリーズの音響も手がけています。

例えば草薙と函南がレストランでお酒を飲むシーンですが、押井監督は草薙がワイングラスを置く音一つを決めるまで、数時間を費やしたといいます。スカイウォーカー・サウンドには圧倒的な量の音のストックがありますが、結局このときには一番高価なワイングラスを使って新たに音を録音したそうです。

こだわり3 キャラクターの動き

©森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

押井監督は作画監督に対して、「止まっているように動く」ようにしてくれと指示したといいます。人間は普段の動作の中で無意識的で些細な動きがたくさんありますが、それらをあえて省かずに描くことにしたといいます。そうすることで、どこかコマ撮りのような、ぎこちないような動きが特徴的な演出となっています。

なぜ押井監督は人間の無意識な動きを表現しようとしたのでしょうか?それは「人間の本当の感情は無意識な動きに宿る」ということを表したかったからでした。手の些細な動きや、肩の動きで人間の微妙な心情の動きを表します。

こだわり4 深みのある画像

©森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

『スカイクロラ』の作画は手書きで行われていますが、押井監督はそこにパソコンでエフェクトを追加しています。パソコンによる編集で、光を追加したり少しぼやかしたりすることで、『スカイクロラ』の世界観を丁寧に表現しているのです。

例えばフーコが服を脱ぐシーンでは、タトゥーが掘られた彼女の背中全体がぼやかされています。これは記憶が曖昧なキルドレである函南の視点を映像で表現したものです。

こだわり5 キャラクター同士の会話

©森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

押井監督はキャラクターの動きの他に、会話についても「会話のキャッチボールをさせるな」という指示を与えたそうです。『スカイクロラ』では会話自体が多くありません。しかし数少ない会話においても、不自然なくらいの間を会話の中に取り入れています。一見会話は成立しているように見えるが、途切れ途切れで相手の話を聞いていないように見える。そんな雰囲気を視聴者に与えます。

こだわり6 現実的な背景

『スカイクロラ』のロケハン場所に選ばれたのは、アイルランドとポーランド。架空の世界を架空のままで現実味のない世界で終わらせないためには、現実世界のディテールを描写することを怠らないことが必要だと押井監督は考えています。ポーランドで戦闘機の格納庫を見に行ったときには、壁につたっているパイプ菅までも写真に撮り、映画にリアリティーを持たせるための素材集めを徹底的に行っていたのです。

『スカイクロラ』押井守監督が伝えたいメッセージとは

©森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

今の若者は情熱の在り処を探していて、何者かになりたいと日々思っているのにその何者かのイメージがどうしても掴めない。押井監督は今を生きる若者の姿をこのように分析します。
そしてキルドレという存在に現代の若者を重ねて表現しているのです。

三ツ矢は言います。「自分が経験したことだという確信がない。手応えがまったくないの。」

このセリフは自分自身のイメージさえも捉えることのできない若者の空虚な感情を的確に表現していますね。

押井監督は、今の若者たちが生きているという実感を得たいのに容易には得られない息詰まりのような気分を『スカイクロラ』を通して、キルドレの生き方を通して表現しています。

キルドレ達がその人生の中でどの瞬間に輝きを感じ、自分を取り戻すことができるのか。それを映画を見る人に伝えるためのこだわりが随所にみられます。


『スカイクロラ』をまだ見たことない人も、前に一回見たことあるけど長らく見ていないという人も、今一度押井監督のこだわりに着目して見直してみてはいかがでしょうか?

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