『時計じかけのオレンジ』とは?
スタンリー・キューブリック監督-(C)Getty Images
時計じかけのオレンジとは、1971年にアメリカで公開された映画です。映画の巨匠、スタンリー・キューブリックの代表作としても有名ですね。
原作はアンソニー・バージェスによるSF・社会風刺小説。暴力や性など、欲望に従順な少年が全体主義の社会によって管理・抑制される姿が描かれます。
残酷で過激な暴力シーンが多く、上映禁止にされることもあったほど。人間の「欲」「悪」「自由への憧れ」を表現した作品で、「人間の悪意を誘発する」とのことで今でも一部から危険視されています。
秩序のために個人の意思を排除するという管理主義の社会を風刺した本作。皮肉めいた内容であるにも関わらず、配色の美しさ、俳優の演技力、SF要素のある魅力的な設定に心打たれる人も。
独特な世界観で人々を魅了し、そして震撼させた『時計じかけのオレンジ』の全貌をじっくり見ていきましょう!
『時計じかけのオレンジ』あらすじ①アレックスの悪行
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舞台は、近未来のロンドン。町では数々の犯罪が横暴している。主人公は15歳の少年、アレックス・デラージ(マルコム・マクダウェル)。彼はクラッシック音楽を好み、中でもベートーヴェンをこよなく愛していた。
そんなアレックスだが、彼は不良グループのリーダーで、仲間たちと毎晩集まっては町へ繰り出し暴力行為を楽しんでいた。仲間とホームレスを打ちのめしたり、他の不良グループを奇襲したり、無秩序で残酷な暴力行為はエスカレートするばかり。
挙句の果てには、親切な中年の作家の家に押し入って暴れまわります。「雨に唄えば」を口ずさみながら本棚を倒し、作家に蹴りを入れ、そして彼の目の前で妻に性的暴行を加えるアレックスたち。
『時計じかけのオレンジ』あらすじ②アレックスの逮捕
そんな暴力を繰り返していたある日、アレックスは仲間たちと「誰がリーダーか」という問題をめぐってケンカをします。問題は解決しないまま、アレックスたちは金持ちの家へ強盗に行きました。気持ちが高ぶったアレックスは、部屋にある男性器型のオブジェを家主の女性に叩きつけます。
パトカーの音が近づく中、アレックスは女性が死んでいることに気付き、慌てて屋敷を出ました。外では仲間が待っていましたが、みんな不敵な笑みを浮かべています。「早く逃げようと」声を掛けるアレックス。次の瞬間、仲間が牛乳のビンをアレックスの顔に殴りつけました。そしてアレックスだけを置き去りにして、仲間は逃げていきます。
仲間に裏切られ、逮捕されてしまったアレックス。度重なる悪行と今回の殺人容疑から懲役14年が言い渡されます。刑務所に収容されて2年。アレックスは牧師に媚を売って模範因を演じていました。
内務大臣は、アレックスの日頃の行いや、クラッシックへの愛、キリストへの信仰に注目します。そして「ルドヴィゴ療法」の被験者になれば刑期を短くすると取引を提案しました。まさに狙い通り。早く出所したいアレックスは提案を受け入れます。
『時計じかけのオレンジ』あらすじ③ルドヴィゴ療法
治療のために施設に移ったアレックス。そんな彼を待ち構えていたのは、想像を絶する過酷な治療でした。
まず投薬された状態で拘束服を着せられ、さらに椅子に縛り付けられます。そして両目をクリップでとめ、瞬きができないようにしっかりと固定します。
目が乾かないように、目薬を差されながら、ひたすら残虐な映像を見せられます。暴力や性的行為には何の抵抗も感じないアレックスは、最初は映像を楽しんでいました。しかし、時間が経つにつれ気分が悪くなっていきます。
投薬された薬には、吐き気や不快感などを催す作用が。治療の目的は、不快感と残虐な映像と掛け合わせることによって、暴力や性的行為に対して嫌悪感を植え付けることだったのです。
「もうやめてくれ」と懇願するアレックス。治療は長きにわたって行われました。皮肉にも、映像のBGMに使われていたのは、アレックスいつも聞いていたお気に入りの曲、ベートーベンの交響曲第9番。治療の後遺症で、アレックスは好きな曲を聞くと拒絶反応を引き起こす体になってしまいました。
治療がおわり、治療の成功を確かめるためのデモンストレーションが催されました。来客した政府の関係者たちに向けて、治療に携わった医師がアレックスの様子を見せます。
『時計じかけのオレンジ』あらすじ④出所後のアレックス
出所したアレックスですが、家に帰っても家族は知らない青年を息子と呼び、アレックスにはそっけない態度をとります。
居場所をなくしたアレックスは、町に出ます。そこで、かつて自分が痛めつけたホームレスたちと遭遇し、今度は自分が痛めつけられる側になってしまいました。暴力行為を目の当たりにするだけでも吐き気がするため、アレックスは自己防衛することもできず、されるがまま。
次に現れたのは、かつての仲間ディムとジョージー。不良だった彼らは、なんと警察官になっていました。しかし心の内にはまだ悪を秘めており、抵抗できないアレックスに容赦なく襲います。
『時計じかけのオレンジ』あらすじ④作家の復讐
疲弊しきったアレックスは、とある家に助けを求めます。そこは、アレックスと仲間が暴行を加えた作家の屋敷でした。そうとは知らないアレックス。しかし、あの時アレックスたちはマスクを着けていたため、作家はあの時の少年がアレックスであることにまだ気づいていません。作家は親切にアレックスを家に招き入れ、入浴を勧めます。
作家の妻はあの事件後、肺炎を起こして亡くなっていました。作家本人も、アレックスの暴行により下半身不随になり、車椅子での生活を余儀なくされました。作家は妻が死んだのはアレックスたちが原因だと思い込んでいて、今でもアレックスを恨んでいます。
入浴する前に、アレックスは自分がルドヴィゴ療法の被験者であることを作家に伝えます。作家は、人権を考えずに権力を振りかざす政府に対し不信感を抱いていたため、被害者のアレックスを利用して、政府に立ち向かうことを決意。
作家はアレックスが入浴している間、要人と電話でやり取りをしていました。しかし、そこで聞こえてきたのはアレックスの「雨に唄えば」の鼻歌。作家はこの歌であの時自分と妻を痛めつけた少年がアレックスであることを悟ります。
激しい怒りがこみ上げる作家。彼はアレックスへの復讐と政府への反撃を同時に行うことを思いつきます。作家はアレックスの前では親切にふるまい、夕食をご馳走しました。そこで要人が作家宅に到着し、アレックスの弱点がベートーベンの交響曲第9番であることを聞き出します。
薬を盛られたアレックスが目を覚ますと、地上とかけ離れた位置にある部屋に監禁されていることに気づきました。突如ベートーヴェンの9番の音楽が流れ、もだえ苦しむアレックス。とうとう耐えきれず、アレックスは部屋の窓から身を投げ出し自殺を図ります。
『時計じかけのオレンジ』ネタバレ注意!衝撃のラストシーン
『2001年宇宙の旅』 - (C) ワーナー・ブラザーズ
再び目を覚ましたアレックスは、病院のベットの上にいました。しかし、彼はルドヴィゴ療法の効果を抹消され、暴力や性的行為に何の抵抗も抱かない以前のアレックスに戻っていました。
少しずつ回復し、食事ができるようになったアレックスの前に、再び内務大臣がやってきます。アレックスの自殺未遂はマスコミによって世間に広められ、ルドヴィゴ療法を行った政府は大バッシンを受けていたのです。大臣は汚名返上のため、「ルドヴィゴ療法の後遺症を克服した」というデモンストレーションをしてほしいとアレックスに頼みます。
謝礼などの見返りを求めたアレックスは、大臣の頼みを聞き入れました。その後、マスコミが病室に押しかけ、大臣とアレックスが仲良く握手をしている姿を撮影。アレックスがルドヴィゴ治療を克服した証明として、ベートーヴェンの第9番の音楽が流れます。
もうアレックスは、第9番を聞いても嫌悪感を感じません。そして、頭の中では性的なシーンを思い描き、その表情は悪意に歪んでいました。欲望に従順な以前の姿に戻ったところで、物語は終わります。
『時計じかけのオレンジ』を徹底解説!
映画『時計じかけのオレンジ』には、いまだ多くの謎が残っています。
例えばラストシーン。悪人の形相に戻ったアレックスの表情。あれは一体何を意味しているのでしょうか?
また、タイトル『時計じかけのオレンジ』の意味とは?
劇中にたくさん使用されている「ナッドサット言葉」とは?
ここでは、映画の疑問点を解説していきます。
『時計じかけのオレンジ』タイトルの意味
『時計じかけのオレンジ』。このタイトルはちょっと変わっていますね。いまいちどんな意味かピンと来ない人も多いはず。それもそのはず、この『時計じかけのオレンジ』は、ロンドンの下町言葉なのです。
ロンドンの労働者階級で話される「コックニー」と呼ばれる下町言葉。日本人には親しみがないのは当然ですね。「コックニー」を日本で例えるなら、方言のようなものです。
イギリスでは日本同様、多くの方言がありました。しかし、「コックニー」は上流階級の人々から下品だと非難されることが多くあり、今ではその言葉を話す人事態も減ってきているのだとか。
「コックニー」の言葉の一つに、”時計じかけのオレンジのように奇妙な”という言葉があります。これは、「はたから見ればわからないが、中身はかなり変」という意味です。
つまり、『時計じかけのオレンジ』とは、ルドヴィゴ療法によって脳をいじられてしまったアレックスを指しているのです。一見普通に見えるアレックス。しかし脳は暴力や性行為に対し激しい拒否反応を起こし、全く普通ではない体になってしまいました。
さらに、もう一つ意味があります。原作者アンソニー・バージェスが一時期滞在していたマレーシア語では、人間のことを「Orang (オラン)」と言います。
そのため、『A Clockwork Orang(e)=時計じかけのオレンジ』とタイトルが付けられたと考えられています。
『時計じかけのオレンジ』ナッドサット言葉とは?
作中、アレックスや不良仲間は”ナッドサット言葉”という若者言葉を使っています。文脈やシチュエーション、語感でなんとなく意味がわかったけれど、本当の意味はあやふや…なんて人はいませんか?
今回はナッドサット言葉の意味をいくつか紹介しましょう。
●ドルーグ…仲間、友達
●デボチカ…女の子
●マルチョック…男の子
●トルチョック…殴る
●ウルトラ・ヴァイオレンス…派手な暴力行為
●ウンチング…食べる
●ホラーショー…最高
●ハイハイ、ゼア…やあやあ、みんな
●ミルク・プラス…麻薬入りミルク
●ビディー…見る
●フィリー…もてあそぶ
見ての通り、独特な言い回しですよね。日本の若者言葉「卍(ヤバい)」「アゲ(テンション上がる)」もかなり個性的ですが、ナッドサット言葉も負けず劣らず難解ですね。
ナッドサット言葉の語源は、ほとんどがスラブ語とロシア語です。それに加え、ジプシー語や俗語が混じり、新しい言葉へと変化しています。
日本語では伝わりにくいセリフですが、劇中のアレックスたちは韻を踏むようにナッドサット言葉を使用しています。その流れるようなセリフ回しに、ハマってしまう人もいるのだとか。
本編を見る際は、ナッドサット言葉にも注目してみてください!
『時計じかけのオレンジ』ラストシーンの考察
ラストシーンでは、ルドヴィゴ治療を克服したアレックスの姿が描かれています。ご機嫌な内務大臣の横で、邪悪な表情を見せるアレックス。このシーンでは、「個人の思想をも政府に操られてしまう」人間の滑稽さが表現されています。
殺人の容疑で逮捕されたアレックス。元々は暴力や性に抵抗がなく、好んで犯罪行為を繰り返していました。しかし、政府は世の中を統一させていく上で邪魔になる「悪」を排除する実験台として、アレックスを選びました。
その結果、本来のアレックスの思考とは裏腹に、暴力や性に対し拒否反応を起こす体になってしまったのです。全ては政府の思惑通り。世の中を取りまとめるための、単なるコマとして利用されたのです。
確かに、現実社会でも犯罪は悪ですが、思想自体は制限されるべきものではありません。私たちには、様々な権利がありますよね。思想・信教・学問・集会・表現の自由。しかし、この映画ではそれらが政府によって奪われる様子が描かれています。
「~しなさい。…しなさい。」と好き勝手命令する政府。反発しても、結局は手のひらで転がされているアレックス。窮屈な全体主義の中では、結局出口は見つかりません。しかし、そのことにアレックスは気付いていないのです。
人間とは?自由とは?と考えさせられるようなラストシーンです。
『時計じかけのオレンジ』のここがすごい!
『時計じかけのオレンジ』では、作中に激しい暴力シーンが多く描かれているため、見る人によっては不快感を覚えることも。確かに、何の罪もない老人や女性が悪意に満ちた少年に痛めつけられるのは、見ていて気持ちが良いものではありません。
しかし、この映画にはたくさんの魅力が詰まっています。過激な内容ばかり注目されがちですが、その他の部分にも見どころが盛りだくさん。映画界から絶賛の声も上がっているほどです。
今回は、『時計じかけのオレンジ』の魅力を3つ解説していきます。