山水景石はギウが親友のミミョクから譲り受けた「富・学術向上をもたらす水石」として扱われていました。本編の中でギウはこの石を何度も触れていましたね。
・自分の家の外で用を足している通行人を追い払うとき
・大雨が降って家が水没したときに持ち出した
・ダソンの誕生日パーティーの当日に、石を持って地下室へ向かった
・終盤で石を川へ戻した
石はギウの「夢」「憧れ」などを表しているのでしょう。ギウが勇気がいるときや、大事なときに石を持っていたのは、「お金持ちになりたい」「今の自分と変わりたい」という願望があったと考えられます。ギテク役のソン・ガンホは石を「映画の”あいまいな状況”を表しているアイテム」と表現しています。つまり、石は誰もが抱えている普遍的なものなのです。
石は勇気や財運をもたらしてくれることもありますが、ギウは石にすがりすぎた結果、石で頭を殴られました。石は使い方によっては、希望となり、身を滅ぼす道具にもなりえるのです。だからこそギウは最後に、石に頼らず自分で生きていくことを選んだのでしょう。
■伏線②ミミョクの存在とは?
『パラサイト 半地下の家族』キム家近隣(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
ギウの親友ミミョクは、ギウの「なりたかった自分」そのものです。名門大学に通い、アメリカへの留学も決まっていて、キム家の家に用を足している通行人を堂々と叱れるような青年。ギウは徐々にミミョクのように振る舞います。
・ミミョクの真似をして、水石を持ちながら家に用を足す通行人を追い払う。
・ミミョクが発言していた「ダヘと将来結婚する」というセリフを、パク家不在の大雨の日に家族の前で話す。
・ピンチのときに「ミミョクならどうする?」とつぶやく。
これを踏まえると、ギウはダヘに好意を抱いていたのではなく「自分はミミョクだと思い込んでいた」と考えられます。
■伏線③石を持ったギウは地下室へ何しに行ったの?
ポン・ジュノ監督『パラサイト 』/第92回アカデミー賞授賞式 (C) Getty Images
ダソンの誕生日パーティーが行われた日、ギウはミミョクからもらった石を持ってムングァンとグンセがいる地下室へ行きます。先ほど解説した通り、石は夢や憧れの象徴です。ギウの夢は「お金持ちになること」「今の状況から抜け出すこと」。そのためには、自分たちを邪魔するものを排除しなければなりません。恐らくギウはグンセたちを殺そうとしていたのでしょう。
もしくは、自分より恵まれているにも関わらず、親友でいてくれて石までプレゼントしてくれた「ミミョク」と同じように、ギウは地下の家族を救おうとしていたとも考えられますね。この部分は「あそこに自分が混ざっても自然かな?」とギウがダヘに言った言葉をどう捉えるかによって解釈が変わってくるでしょう。
■伏線④インディアンは何を意味している?
喜びを分かち合うポン・ジュノ監督ほかキャストたち/『パラサイト 半地下の家族』作品賞受賞【第92回アカデミー賞】 (C) Getty Images
本作で度々登場してきた「インディアン」。よくダソンがインディアンの格好をしていましたね。これは「寄生(パラサイト)されるもの」を意味していると考えられます。もともと、アメリカは先住民であるインディアンが暮らしており、そこに白人が押し入り現在のアメリカが生まれました。つまり、ダソン=お金持ち=寄生されるということの暗示。
一方、ヨンギョはインディアンではなく「アメリカ」が好きで、ギジョンがアメリカで美術を学んだ経歴があると聞いて非常によろこんでいました。インディアンのように規制される側のヨンギョが白人文化を好きだという皮肉とも考えられますね。
■伏線⑤ダソンはすべてに気付いていた?
ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』/photo:You Ishii
ダソンはパク家の中で一番にキム家の不審さに気付いた人物です。ギウがパク家にやって来たときも、インディアンの弓矢を打ちましたし、キム家4人のにおいが全員同じであることにも気付いていました。
■伏線⑥ダソンの絵は誕生日パーティーの惨劇の暗示
ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』/photo:You Ishii
本編でヨンギョが「ダソンの自画像」と紹介した絵は、実は「幽霊(グンセ)の絵」であり、今後の展開の暗示でもあります。絵には、肌黒い男(グンセ)と晴天、テントが描かれています。グンセ・晴天・テントというと、あの誕生日パーティーが思い浮かびますね。さらに、後で「銀の棒を持った額が赤い男性」の絵も登場します。これは確実にナイフを持ってギジョンを襲ったグンセですね。
■伏線⑦なぜギジョンはダヘから警戒されなかったの?
ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』/photo:You Ishii
ギウに対して警戒していたダソンですが、ギジョンにはまるで師匠と弟子のような、妹と弟のような関係を築きます。それは、ダソンが「母親的存在からのスキンシップ」に飢えていたからでしょう。ヨンギョはダソンをかわいがってはいますが、スキンシップはあまりしません。一方、ギジョンはダソンを膝の上にのせたり、何かとスキンシップを取ったりします。魔性なのか作戦なのか、ギジョンはそのしたたかさでダソンからの信頼を勝ち取りました。
■伏線⑧洪水のときにキム家が拾った石・メダル・タバコ
ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』/photo:You Ishii
大雨の日、パク家から脱出したギテク、ギウ、ギジョンは水没した自宅からあるアイテムを取り出します。ギテクはチュンスクのメダル、ギウは石、ギジョンはタバコでした。メダルは妻(家族)への愛情、石はギウの夢や憧れ、ギジョンのタバコは「闇」を表しているのではないでしょうか?メダルと石は何となく予想がつくとは思いますが、ギジョンのタバコは少し掘り下げる必要がありそうです。
いつもクールで機転も利くギジョンが、なぜ自分の身体をむしばむ有害な「タバコ」を選んだのか。彼女には、守りたいものや希望がなかったのでしょう。計画は破綻してばかり、父親は「計画しても無駄」というばかり。ギジョンはこの現状に疲れ、半ば生きる気力をなくしていたのでしょう。
■伏線⑨ドンイクの「一線を越える」という言葉の意味は?
ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』/photo:You Ishii
ドンイクは本編で「一線を越えるな」という発言をしていました。これは、「金持ち」の自分と「貧乏人」のギテクたちを一緒にしないでほしい、という思いの表れです。実際、ギテクがドンイクに「奥さんを愛してるでしょう?」と聞くシーンでそれが顕著に表れています。
ドンイクはギテクに自分のプライベートに踏み込まれたこと、そして「家族」という共通の話を持ち出すことによって、自分たちを「同等の存在」かのように振る舞うギテクに対して、嫌悪感を抱き、答えを濁します。
■伏線⑩貧乏人と金持ちの間に存在する「線」
ポン・ジュノ『パラサイト』キャスト陣 (C) Getty Images
本編ではキム家とギテク家が同じ空間にいるときに、必ず両者の間に「線」があるのです。それは天井の境目だったり、窓の角だったり、形状は様々です。とにかく空間を分割するかのような垂直線が画面に出てきます。まさに「見えない線」です。これは、貧乏人と金持ちの決定的な違い、目には見えないものの、人と人の間に必ずある「壁」と意味しています。
■伏線⑪たくさん出てきた「階段」は何の暗示?
『パラサイト 半地下の家族』舞台挨拶